フランス留学経験のあるシェフが教える牛肉の真実

牛肉 bœuf(ブフ)

牛は西アジアでは新石器時代にオーロックから家畜化した牛科の動物です。メソポタミアなどで神聖な動物として生贄に使ったり、神官の乗り物を牽かせたり、次第に畑を耕したり、飲用乳牛として利用するようになってきました。フランスでは中世まで牛をとことん農耕や乳牛として使い果たしたやめ、食用に回されてきた時には硬く、煮込み料理にしないと食べられないほどでした。

その硬い肉でさえ、裕福な家庭でしか食べることができず、貧乏人は内臓類しか食べることができなかったと言われています。18世紀末にイギリスを中心に産業化革命がおこり、それによって農業の機械化が進み、農耕牛の役割が次第に減っていき、20世紀後半から食用牛が増えていきました。

 

フランス牛の品種と産地

フランスでは一部の地域を覗き、至る所で牛を飼育していて、それぞれの地域に適合した在来種がいました。ブルゴーニュ地方の南部シャロレーズは昔から優良な牛として名高く、今日ではシャロレ地方以外の国内外でも飼育が多く、フランスの食用牛肉のなかでは一番飼育頭数が多いです。

現在では世界的な品種やその交配種が増えて在来種は減ってきています。このほかの食用牛肉ではリムーザン地方のリムジーヌ、アキテーヌ地方のブロンド・ダキテーヌなどが有名です。

日本国内で流通する牛肉

国内産は約40%で、残りはアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダからの輸入牛肉に占められています。アメリカでのBSE騒動が発生するまではアメリカ産の牛肉が多かったですが、近年では圧倒的にオーストラリア産が増えてきました。

国産牛肉の内訳は乳用牛、去勢牛、和牛4種がそれぞれ35%強、残りが乳用牛の雌牛になります。松坂牛や神戸牛などの銘柄牛もありますが銘柄規定はありません。

アメリカでは穀物飼料で飼育するグレインフェッド、オーストラリアでは牧草で飼育するグラスフェッドが主流の飼育方法ですが、近年ではオーストラリアでも日本向けにはグレインフェッドで肥育していることが増えてます。また、和牛の品質が海外でも認められ、アメリカやオーストラリアでは和牛の飼育も始まってきています。

牛肉の部位と切り方の特徴

牛は体が大きいため、部位によって風味が異なり、調理法も自ずと変わってきます。肉は牛に限らずよく動かす部分は筋肉が硬く、筋が多く、肉が薄いため、首、スネ、腹などは下等肉として扱われます。

逆にあまり動かさない部分はやわらかく、背から腰、ももにかけての部分やフィレは高級肉となっています。そのほか肩から上腕、脇バラは中間の等級になっています。柔らかい肉は風味を損ねないようにさっと加熱するのが好ましく、硬い肉はとろ火で長時間煮込むことで柔らかくする料理に向いています。

牛肉の部位

半丸枝肉
日本の部位名 フランスの部位名  部位の説明
demi-carcasse 頭、尾、足先を除き、脊椎から半分に切った肉
四半身
quartir
首肉 collier
肩肉 épaule  肩から上腕にかけての肉
背肉
(ロース) train de côtes
肩ロース basse côtes
リブロース milleu de train de côte
コート côte 肋骨を1本ずつ切り分けた肉
アントルコート entrecôte リブロースの骨を除き、1,5~2cmの厚さに切った肉。肩ロースからもとる
アロワイヨー
aloyau サーロイン+フィレ+ランイチ
サーロイン contre-filet 腰部肉
フィレ filet
ランイチ 臀部肉
ランプ rumsteck ランイチのサーロインよりの肉
イチボ ランイチの後ろよりの肉
もも肉
globe 外腿肉+内腿肉+シンタマ
外もも肉 gîte noix
内もも肉 tend de tranche
シンタマ tranche grasse 内ももの下部肉
スネ肉 gîte(jarret)
前ズネ gîte de devant 前足のスネ
トモズネ gîte de derrière 後ろ足のスネ
crosse  スネと足先の間
バラ肉
肩バラ バラ肉の肩側
トモバラ バラ肉の後方
バラ肉 plat de côtes 骨つきバラ肉
バヴェット bavette サーロイン後ろ側の下にある
胸肉 poitrine
フランシェ flanchet 腹部肉。フランク
食肉として扱う臓物
サガリ onglet 横隔膜の背中側の厚い部分。ハンギングテンダー
ハラミ hampe 横隔膜の肋骨側の厚い部分。アウトサイドスカート

ステーキの部位と焼き加減

フランス語のスティックsteakは「切り身」を意味する英語から取り入れ、牛肉のステーキ用切り身とステーキ料理の両方をさします。ステーキ料理はある程度の大きさに切った肉をフライパンなどでソテーするシンプルな料理です。

そんなシンプルな調理法だからこそ肉の部位によって高級にも大衆的な料理にもなり、ソースによって風味のバリエーションが楽しめます。

肉は、フィレ、ロース、サーロインをはじめ、ランイチ、もも肉、バヴェット、ハラミ、サガリ、など様々な部位を使い、ある程度の厚みをの物を使います。フィレやサーロインなどの最上肉はそれぞれ固有の切り方があります。

シャトーブリアン フィレの中心部から分厚く切り取った円形の切り身。およそ300g以上あります。
トゥルヌド  フィレの中心から尾よりの部分から切り取った小ぶりの円形の切り身です。
メダイヨン トゥヌルドと同じか一回り小さいフィレの切り身です。
フィレ・ミニョン トゥヌルドより小さいフィレの切り身です。
Tボーン サーロインを、背肉の内側に剃ってついているフィレをつけたまま切り分けた大きな切り身です。
パヴェ サーロインや内もも肉などから分厚く資格に切った切り身です。
エマンセ ある程度の厚みをもたせた厚切り肉です。
bleu(ブルー)

表面だけ役焼く。触ると柔らかい。中はほとんど生で赤く生温かい。フランス人はこの焼き加減が好きな人が多いです。英語ではベリーレアになります。

seignant(セニャン)

外側から1/3くらいまで焼く。触るとすこし手応えが感じられます。中は赤みが少し消え生温かいくらいです。英語だとレアの焼き加減にあたります。

à poin(ア・ポワン)

全体の半分ほど焼きます。触ると手がたえがあり、表面に血が浮いています。中の色はピンク色で熱いです。英語ではミディアムにあたる焼き加減です。

bien cuit(ビヤン・キュイ)

なかまで十分い焼きます。触ると硬く熱いです。中の色も茶色に近い色になります。英語ではウェルダンにあたる焼き加減です。

rôti(ロティ)

牛の塊肉をオーブンで焼く料理の代表はロティですが、料理用のオーブンが普及する以前は大きな塊肉や丸ごとの家畜などを串に刺して炉の前で串を回転させながら炙り焼きする料理をローストといいました。

ある程度の大きな塊肉を焼くと内部までゆっくりと火がはいり、旨味の損失が少なくジューシーに仕上がります。肉はロース、フィレ、サーロイン、ランプなどなどがロティに向いた部位になります。塊が大きく加熱時間が長いので表面が乾きやすいので、焼き油をかけながら焼いたり、豚の背脂などを巻いたりして表面の乾燥を防ぎながら焼き上げます。

rôti de bœuf(ロティ ド ブフ)

もともとはイギリスの料理で、最近では日本でも馴染みがあるローストビーフのことです。イギリスではグレービーソースやホースラディッシュソース、皮付きのじゃがいもとクレソンなどを添えられてくることが多いです。

塊肉を使うので、塊ごとプレゼンテーションでき、写真映えもよいので人気の料理となっています。炊飯器を使って作るレシピなど簡単にできるというのも人気の秘密かもしれません。

茹で煮

常温の液体に肉を入れ、沸騰直前の状態でゆっくりと加熱する方法と、たっぷりの熱した液体でできるだけ短時間で加熱する方法があります。

ゆっくりと加熱する方法では、塊肉と野菜をたっぷりの水で煮るポトフなどが有名です。マスタードや胡椒、ホースラディッシュを添えて食べます。使う肉の部位は赤身肉や脂身の多い肉、ゼラチン質の多い部分を混ぜて使うと美味しくなります。

さっとゆでる方法では、柔らかいロースなどの部位を使い肉に旨味が残るようにたっぷりのブイヨンで静かな沸騰状態で加熱し、肉自体を味わいます。日本でいうしゃぶしゃぶと同じ原理ですね。ポトフと同じようにマスタードや胡椒、ホースラディッシュで食べます。

これらで残った肉はサラダやサンドイッチに使ったり、茹でたじゃがいもやピクルスを添えて冷前菜料理として使うこともできます。

蒸し煮

塊肉の表面を焼き固め、香味野菜とだしなどを加え、きっちりと蓋をしてオーブンでじっくりと加熱し、煮汁をソースに仕上げる方法です。気密性の高い蓋つきの鍋で、少なめの煮汁の蒸気を利用する。気密性を高めるために、パイ生地などで蓋と鍋を目張りすることもあります。直火で一煮立ちさせてからオーブンに入れることで時間の短縮をすることができます。

地方ごとに蒸し煮用の独特の鍋がありあます。また、地方によって特産品を使った蒸し煮の地方料理などが数多くあります。

煮込み

基本的には蒸し煮と同じような調理法になりますが、肉の大きさを切りそろえて、野菜ととろみをつけた液体の中で煮ます。これは、最初に肉の表面に焼き色をつけて茶色に仕上げるソース煮と、色付けないように焼いて白く仕上げるフリカッセがあります。

肉の熟成

家畜肉は屠殺後に死後硬直し、そのあとに硬直が解けてやわらくなり、旨味もまします。これを熟成と言います。

硬直はグリコーゲンやATPなどの分解・現象によって筋肉中のタンパク質が強く結合し、筋肉が収縮したままになる現象で、保水性も悪いです。そのため、硬いだけでなく、加熱すると離水しやすいという特徴があります。しかし、時間の経過とともに酵素によって乳酸やリン酸が生成され、タンパク質が分解して筋肉がほぐれ、アミノ酸が増加して旨味を増し保水性が戻ります。

熟成期間は(屠殺後から肉が食べられるようになるまでの時間)家畜の種類や年齢、肥育具合によって異なります。体が大きもの、老齢のもの、肥育の進んだものほど熟成に時間がかかります。個体に関係なく外気温が高いほど熟成は早まります。しかし温度が高いと鮮度も悪くなってしまうので、なるべく低温で熟成させると長持ちします。貯蔵温度は2~4度の場合、熟成期間は鶏肉は半日〜1日、豚肉で3〜5日、牛肉で10〜14日ほどが目安になっています。

牛の病気

BSE

英語のbovine spogiform encephalopathyの頭文字をとってBSEといい、日本語では牛海綿状脳症、フランス語ではESB(encéphalopathie spongiform bovine)といいます。日本では一般に狂牛病と呼ばれています。

これは羊の風土病スクレイピーから20世紀末になって牛にBSEとなって発症し、人にも伝わり、発症後案とし前後で死に至る変異型クロイツフェルト・ヤコブ病を引き起こしました。これらの病気は発症すると神経が冒されて体が震えて立てなくなり、解剖すると脳がスポンジ状になっている。伝染性があるように見えますが、核をもった自己増殖する病原菌が検出されていません。プリオンというタンパク質の異常型が体内に取り込まれて発症するとも考えられています。そのため一括して伝達性海綿状脳症、またはプリオン病といいます。

BSEは伝達性海綿状脳症にかかった動物を使った肉骨粉飼料から、ヒトの変異型ヤコブ病はBSE感染牛の特定危険部位SRMから摂取から伝達したと推測されています。体内に取り込まれた異常型プリオンタンパク質は増殖するのではなく、すでにある正常型プリオンを異常型タンパク質に変えて、体内に蓄積して発症すると考えられ、BSEの場合、潜伏期間平均5年と長く、月齢の若い牛での発症例は少ない。

BSEを発生させないように日本では、牛の死体の検査や処理、肉骨粉の規定などを作り、屠畜する牛にBSE検査を導入し、SRMの除去焼却を義務づけています。

フランスでは昔から内臓料理が好まれ、脳は食通の、脊椎や腸は庶民の食卓に欠かせず、BSEの発症で大打撃をうけました。内臓類だけでなく、牛肉離れも起きました。現在ではBSEの発症が少なくなり、内臓離れも徐々に解消していますが、健康志向は強くなる一方で魚介類の消費が増える傾向にあります。

口蹄疫

牛や羊、豚など偶蹄目の動物がかかるウィルス性伝染病です。ヒトにも感染することがあるが、発症しても軽症で治癒し、ヒトからヒトへの感染はないと言われています。牛などが感染すると1週間ほどで発病し、発熱して口内の粘膜や蹄の間に水疱ができ、よだれが出る。死亡率は低く2〜3週間で治癒するが、食欲が減退し、発育不良になる。

また、伝染性が高く、車や衣服、わら、ほこりなどに付着して拡散し、ウィルスは夏で1ヶ月、冬では2ヶ月も生存します。

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