フランス留学経験のあるシェフが教える豚肉の真実
豚肉porc
豚肉
世界の食肉の消費量をあなたは知っていますか?種類別に豚肉、鶏肉、牛肉の順番におおいです。これはフランスでも日本でも順番は一緒です。しかし、フランスと日本での豚肉消費事情は大きく異なり、フランスでは加工品が多く精肉は少なめで、日本ではほとんどが精肉として流通しています。
フランスでは高級レストランのメニューに豚肉料理が乗ることは珍しいですが、料理の副菜や付け合わせの材料では豚肉加工品は欠かせません。昔から庶民と食べ物として親しまれています。豚は脂肪が多いのが特徴で、溶かしてラードとして利用したり、薄切りにして脂の少ない他の肉を覆ったり、テリーヌなどの型に敷いたりと用途がたくさんあります。
品種
豚は肥育が早く、早熟(1年未満)で年に2回以上出産し、多産(1回に10頭前後産む)で、食性が広いため買いやすい家畜です。脂肪の融点が低いので加工品は冷たくても美味しく食べることができます。
このような特徴があるので他の家畜とはことなり、もっぱら食肉ように飼育されています。品種にはラード用、精肉用、加工用があり、現在はラードの需要が減り、加工品用が増えています。
フランスでは大ヨークシャー、フレンチランドレース、ピエトレン種が多く、主産地はブルターニュ地方が50%以上を生産しています。ついでペイ・ド・ラ・ロワール地方が10%強となっています。
日本では大及び中ヨークシャー、ランドレース、デュロックなどの交配種が多く、精肉用が80%を占め、消費量の1/4程度はアメリカ、カナダ、デンマークなどからの輸入に頼っています。
種類 | フランス語 | 飼育期間 |
豚 | porc,cochon | 生後5〜6ヶ月 |
乳飲み子豚 | cochon de lait | 生後6週間未満、10〜15kg |
子豚 | porceiet | 離乳した子豚 |
雌豚 | truit | 子豚を産んだ雌豚。主に加工用 |
料理
フランスでは料理に用いるとしても、精肉よりも塩漬け豚肉やソーセージなどが圧倒的に多いです。豚肉料理では野菜と煮込むポテが代表的で、各地に色々な材料の組み合わせがあります。レンズ豆やインゲン豆、キャベツなどと相性が良く、アルザス地方のシュークルート、ラングドック地方のカスレなどの料理があります。
精肉を使った料理は仔牛肉や仔羊肉などと同じようにロースト、グリエ、ソテー、蒸し煮、煮込みなどにします。甘みのあるフルーツの干しプラムやりんごとの相性もよく、一緒に調理されたり、付け合わせに使われたりします。ハーブではセージをよく用います。
しかし、フランスでの加工豚肉料理の真骨頂はパテやテリーヌ、リエット、ガランティーヌ、ジャンボン・ペルシエなどといった料理で、お店の個性を強調する料理になっています。
豚肉の部位名
日本の部位名 | フランスの部位名 | 部位の説明 |
肩肉 | épaule | |
肩バラ肉 | plat de côtes | |
gorge | 喉肉。豚トロ | |
肩ロース肉 | échine | |
ロース | carré | キャレ |
ロース | filet | 腰肉 |
ロース | côte | 肋骨をつけたロース |
フィレ | filet mignon | |
もも肉 | pointe de filet | 尻肉 |
もも肉 | jambon | もも肉 |
バラ肉 | travers | スペアリブ |
バラ肉 | poitrine | 胸肉 |
スネ肉 | jambonneau | |
lard gras | 背脂 |
豚肉加工品 charcuterie (シャルキュトリ)
豚肉や豚肉加工品を販売する店で取り扱う加工品のことです。豚の肉と内臓を中心に、その他の家畜や家禽、猟鳥獣など加工品も取り扱うことが多いです。塩漬け、燻製、感想、コンフィ、腸詰、缶詰など保存が聞いて料理材料として利用するものですが、そのまま食べれる物や焼いたり茹でたりするだけで食べられる物などもあります。ガランティーヌやテリーヌ、パイ包み焼きなどが売られています。
塩漬け
塩をまぶすか塩水につけて塩漬けにします。肉類の場合保存食作りの第1段階として多くの加工品で行われます。塩漬けにすると適度に肉の水分が抜け、旨味が凝縮するので美味しくなります。目的や塩分濃度によって塩漬けする期間は数時間から数日間になります。場合によってはそれ以上の期間塩漬けする場合もあります。豚肉ではバラ肉が代表的ですが、それ以外の部位でも塩漬けは行います。
コンフィ
肉や内臓をその家禽の脂を溶かした中で低温で加熱し、脂で覆って保存する加工品です。ガチョウや鴨のコンフィが一般的には有名ですが、豚肉やその他の肉でも行われます。リエットは豚肉の繊維が解けるほど煮るコンフィの一種です。
鵞鳥や豚の脂からでた残りの脂カスも美味しくそのまま軽く塩を振るだけでつまみになりますが、健康志向の近年では敬遠されがちになりました。
燻製、燻煙
木片の煙で燻したものです。薫香がつくだけでなく、食品の脱水を促し、微生物の増殖を防止する効果があります。30℃以下で行う冷燻法とそれ以上の温度で行う温燻法があり、使用する木材によって香りが異なります。料理に直接燻香をつけるために、ごく短時間だけ燻すこともあります。
乾燥
ハムなどを除き、肉類はそのままよりも薄切りや腸詰にしてから乾燥させます。魚のように風干しすることはほとんどなく、室内で乾燥させます。塩漬けでけより日持ちが良くなり、カビをつけることもあり、熟成効果も向上し旨味が増します。
ハム
豚のもも肉から作り、非加熱ハム(生ハム)と加熱ハムがあります。生ハムは塩漬けして乾燥させ、熟成させ、加熱ハムは塩漬け後茹でて作ります。各地に特有の製造法のハムがあり、バスク地方のバイヨンヌハムが有名です。
生ベーコン
豚バラ肉の塩漬けの燻製のことです。背ロースで作るロースベーコンもあります。いずれもフランスでは冷燻するため、温燻する日本のベーコンとは風味が異なります。様々な料理の風味づけに使う他、薄切りにしてイギリス風のベーコンエッグにもしたりします。
パテ類
肉や脂身、内臓などのファルスと粗切りや細切りにした肉などを型に詰めて加熱したものがパテです。パテ・ド・カンパーニュが代表的で、豚肉とレバー類などを粗く刻んで型に詰めて加熱したものがあります。
レバーパテはレバーベースの滑らかなファルスだけで作ったものです。テリーヌは陶器のテリーヌ型を使い、豚の背脂の薄切りを敷いてファルスとその他の材料を詰めて焼きます。
パテ・アン・クルートは、生地を敷いた型に詰めて焼く。型を使わないものもあり、1人用の小型にもつくります。ガランティーヌは、赤身肉にファルスを塗って円筒系に巻いてフォンで茹でます。
ソーセージ
主に豚や羊の小腸に、挽いた豚肉と脂身などを詰めます。豚の赤身肉と脂身を合わせて挽いた調味したものはソーセージ用挽肉といいます。赤身肉だけでつくるとぼそぼそになるので、脂身は必ずいれます。
調理用ソーセージ
ソーセージ用挽肉を腸に詰めただけのもの。あるいは軽く乾燥させるか、冷燻にしたものです。一般に前者は焼いて、後者は茹でるか煮込んで食べます。また、ソーセージ用挽肉を豚の脂身で平らに包んだ脂身包みは平ソーセージともいい、調理用ソーセージに分類します。
ドライソーセージ
主に赤身肉と脂身を腸に詰めて乾燥、熟成させた保存食です。詰める肉の種類も使う腸の種類も色々あり、地方それぞれの特色があります。
加熱ソーセージ
肉と脂身だけでなく、レバーやタンなども腸に詰めて主に茹でて作ります。また、燻製することもあります。パリソーセージやレバーソーセージなどのようにそのまま薄切りにして前菜やカナッペやサンドイッチにして食べるものと、茹でたりして食べるものとがあります。
その他の腸詰め
豚の腸に、豚の腸や肉を詰めて茹でた後に燻製するアンドゥイユと、豚の腸に豚の腸と胃と喉肉などをつめて茹でるアンドゥイエットがあります。どちらも独特の風味があり、苦手な人も多いです。
黒ブーダンは豚の血と、脂身などを腸に詰めて茹でたものです。腸に詰めずに瓶詰めにすることもあります。りんごと一緒にバターで焼いて食べるのがもっとも一般的な食べ方になります。
形状が似ているものに白ブーダンと呼ばれるものは、家禽、仔牛、豚肉を牛乳、卵でつないで腸に詰め、茹でたものです。魚肉でも作り、ゆでたてを食べるか焼いて食べます。似たような材料を紡錘形に成形したものはクネルといいます。
畜産副生物
屠畜した家畜類の枝肉は、家畜の種類にもよりますが、約半分を占め、あとは皮革、ゼラチン、ゼラチン、医薬化粧品などへの利用が20%で残り15%ずつが副生物と廃棄物になります。この副生物は内臓類をはじめ、頭やテール、足先など、精肉以外のの食肉になる部分を含み、フランス語ではアバといいます。
これらは鮮度が重要なので、熟成が必要な肉とは流通が異なり、フランスではトリピエという臓物屋で扱っています。
動物によって食用部分やその価値が異なりますが、一般的に仔牛や仔羊など若い動物のものは柔らかく風味が良いです。量が少ない胸腺や脳みそは珍重され、胃腸類は昔から安価で庶民の食べ物として親しまれています。胃腸や頭肉、足先などは下ごしらえに手間がかかり、トリピエで洗ったり、不要部分を除去したり、下ゆでして販売します。
こうした下処理をしたものを白いアバ、下処理をほとんどせずに販売するものは肉扱いされることが多いです。
胃腸
牛や羊などの反芻動物には胃が4つあります。それぞれの胃を別々に用いるほか、胃全部、さらに腸も合わせて扱うこともあります。一般に掃除して下ゆでしたものが出回り、下ごしらえした胃腸をトリップといい、これを用いた料理もトリップと言います。刻んでサラダや煮込みにし、カーン風やニース風などが有名です。
下ごしらえした牛の第1胃の身の厚い部分(上ミノ)はグラ=ドゥーブルと言います。柔らかく煮て角型で冷やし固めた商品もあります。リヨネ地方で好まれ、タブリエ・ド・サプール、玉ねぎと炒めるリヨン風などの料理があります。
頭肉
仔牛と豚は頭を丸ごと使いますが、ほかはタン、耳、頬肉、などに分割して用います。豚は主にテッド・ド・フロマージュなどの豚肉加工食品になります。仔牛の頭肉は骨を除いて血抜きし、筒状に巻いて糸をかけて茹でたものが出回ります。薄切りにしてヴィネグレットやグリビッシュソースなどの味のしっかりしたソースを添えて食べます。
頬肉
コラーゲンを多く含み、豚の頬肉はテリーヌやパテに欠かせません。牛の頬肉は蒸し煮などにむきます。鼻を加えたものは鼻づら身tいいます。
タン
血抜きして下ゆでしてから、調理に用います。筋がなくて柔らかいです。牛のタンは緋色仕立てをはじめ蒸し煮、茹でに、煮込み、衣揚げ、グラタンなど様々な料理に使われます。
脳みそ
仔牛と仔羊が主に使われます。酢水にさらして血抜きして、薄皮を向いて下ゆでしてから用います。なめらかで柔らかく、バター焼き、ムニエル、フライなどにします。
胸腺
喉の下にある器官です。成長とともに退化するので仔牛や仔羊にしか付いていません。水にさらして下ゆでしてから、ソテー、フライ、蒸し煮にします。
テール
コラーゲンが多く、おいしい出汁が取れるのでポトフやポタージュに使う他、牛のテールは蒸し煮やサント=ムスー風などに使います。
足先
主に仔牛、羊、豚の足を骨から外して茹でてから蒸し煮、グリエ、フライなどに用います。仔牛の足は料理に使うだけでなく、だし汁や煮込み、ゼリー寄せなど重要なゼラチン源になります。羊の足を使ったピエ・エ・パケはマルセイユの名物料理です。豚肉の加工品に豚足を下ゆでしてパン粉衣をつけたものがあります。
心臓
仔牛や仔羊の心臓は柔らかく、牛の心臓は歯ごたえがあります。切り開いて筋や血の塊を除き、血抜きします。丸ごとをロースト、薄切りをソテーする他に、串焼きや蒸し煮にします。
腎臓
羊と豚の腎臓はそら豆の形をして1対ありますが、牛の腎臓はいくつかの房に分かれた不定形です。仔牛の腎臓が一番癖がなく柔らかいです。グリエやソテー、串焼きにし、硬い場合には蒸し煮にします。牛の腎臓を覆っている厚い脂肪層はケンネ脂といい、ヘットとして揚げ油として使うほか、イギリスではミンスミートに用います。
その他
豚の血は豚肉加工食品や煮込みやソースに、膀胱は肥育鶏などを入れて茹で煮するのに利用する。食べられる部分は余さず利用するが、牛と仔牛の肺臓と脾臓、羊や牛の睾丸、雌牛の乳房などは見られなくなっています。
骨は副生物には入れませんが、牛のスネやモモなどの長い骨には骨髄が入っており、これを骨から取り出してゆで、肉料理に添えたりソースに加えたりします。